【世界の夜】マルティン・ハイデッガー 確かな存在が腕の中に抱きしめられる
世界の夜という乏しい時代は長い。
この夜は長いことかかってはじめてその中心にゆきつくに違いない。
この夜の真夜半においてこそ、時代の乏しさは最大になる。
その時、欠乏に悩む時代はおのれの乏しさを経験することさえできない。
乏しいものの乏しささえもが暗闇に包まれてしまうほどのこの無能力、
これこそ時代の乏しさそのものなのである。
我々に残されている唯一つの可能性は、哲学と詩が、
人類滅亡のときに神の顕現はあるか、あるいは神が不在に終わるか、
これに対する覚悟を用意することである。
死は誰とも代わることのできない、我々の最も固有の可能性である。
この死の可能性へと関わることが、我々の最も固有な存在しうることを明らかにする。