【蛇の花嫁】大手拓次(おおてたくじ)

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大手拓次詩集 (岩波文庫) [ 大手拓次 ]
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一体、表情といふのは、その香気が、あまい、かたい、やわらかい、にがい、くせがある。素直だ、強い、弱い、ふるい、新しい、あらい、こまかい、永く保つ、保たない、遠くへきく、遠くへきかない等といふ現実なものの見分け方の上に、更に、さういふ種々なものが綜合されて、ほのかに煙つてくる夢幻的感情の見分け方なのである。

 


わがおもひ尽くるなく、ひとつの影にむかひて千年の至情をいたす。あをじろき火はもえてわが身をはこびさらむとす。そは死の翅なるや。この苦悶の淵にありて吾を救ふは何物にもあらず。みづからを削る詩の技なり。されば、わが詩はわれを永遠の彼方へ送りゆく柩車のきしりならむ。よしさらば、われこの思ひのなかに命を絶たむ。

 

 

みぞれするかや
このゆふぐれの日に
こゑもなく
ひとびとの 行き交かへり

 

かなしみは かなたへ去らず
日影のごとく うつろへど
はてしなき いのちのなかに たそがるる

 

うまれざる花を
われは抱けり
こころ しぐれのなかに
にほひをおぼゆ

 

かぎりなく ひろごりゆく
あをき手のまぼろし
あをき手のまぼろし
げにもさみしき
あをきまぼろし
うつつなき 花をうがちて
こころむなしく しらべをおとす

 

いづことも わかねども
そのかたち わすれがたかり
そのいろの わすれがたかり

 

ただよひゆくもの
わが心のなかに
ただよひゆくは
ゆふぐれのひかりをあびて おとづるる
汝がこころの かげのこゑ

 

 

人間の精神について、自分の存在について、誰よりも正直に語るために嘘をまなぶ。

 

永瀬清子

 

乱れ降る春の淡雪は 地上に消える いずれが先ということはない
一しきり舞い狂うて あとから消えてゆく

 

高橋新吉