【その道は地獄ですぞ!!】吉川英治(よしかわえいじ) 果てない道を、果てなく旅しておりまする
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剣を研くべく―禅をする、書をまなぶ、茶にあそぶ、画を描く、仏像を彫る。
――ただ一人救ってやらなければならない人間がある。その者の幸福になるのを見届けたら、もう望みはない。
子どもの頃は誰でも画を描く。画を描くのは、歌をうたうも同じだ。それが大人になるときまってみな描けなくなる。生半可な智恵や目が邪げるからである。
人間が地上に描いた諸行は、善業悪業ともに、白紙へ墨を落したように、千載までも消えはしない。
果てない道を、果てなく旅しておりまする。
彼自身は、ひたすら一筋の道をば、脇目もふらず歩いているかに思われるが、傍から眺めると、自由無碍な、いかにも気ままな道を歩いたり、止まったりしているように観えるのだった。
彼の奉じる「剣」は乱世の凶器から、平和を守る愛の剣へと変って行った。権力と武力ばかりをかざす器具に、人間本能を自戒する大切な「道」をもたせた。破壊や殺戮の剣から、修身の道と心的な道味を酌んで行った。
前へ行く道のみがどうして危ういと云うか。後ろへ退く道が必ず安全とどうして云えるか。そう考えるのは、まだ平常に囚われておる其方の観念だけのものだろう
人間の想像力にはおよそどうしても一定の限界がある。あとでは当然その非に気づくことでも、事実のあらわれる瞬間までは、いつも十目十指的な常識の線からは一歩も出られないのが普通らしい。
ガラシヤは、当然他にも起るはずだった、多くの悲劇を、身一つで堰き止めた。幾多の犠牲を救いあげて、今は、もっとも容易い死へ赴いた。
世は長く人の生は短い。その永遠にかけてここの生命を無意義にはさせまい。われら短い儚い者を久遠のながれにつなぎとめて後世何らかの鏡となって衆生に問おう。世をうらむこともない。わしたちは、そうした宿縁宿命の下にこの土に生れ合せた者どもであったとみえる。・・・・・・では行こう。