【神聖とは残忍なもの】林芙美子(はやしふみこ) 花の命は短くて苦しきことのみ多かりき



金だ金だ
金は天下のまわりものだって云うけど
私は働いても働いてもまわってこない


――思いまわせばみな切な、貧しきもの、世に疎きもの、哀れなるもの、ひもじきもの、乏しく、寒く、物足らぬ、果敢なく、味気なく、よりどころなく、頼みなきもの、捉えがたくあらわしがたく、口にしがたく、忘れ易く、常なく、かよわなるもの、詮ずれば仏ならねど此世は寂し。



人間の考へと云ふものは、何でも正確なものを欠いてゐる気がした。都合のいゝやうな事をうまく云ひたい為の行為だけが、人間の考へのなかの答へなのだ


死者は、いまこそ、生きたものから、何一つ、心づかひを求めてはゐない。されるまゝに、されてゐるだけである。


神聖なものはみじめよ。第一、馬鹿正直で、馬車馬みたいに走らされて、乘つかつてる人間は汗もかゝないつてことなのね……


たべるものも、よくを出さないかぎり、平和に食べられますし、自由に歌をうたえますし、何と云う住み心地のいいところだろうと思っています。私はまだ、あと一二年は長生き出來るでしょう。


何をするつて、先きだつものは金だよ、何をするにしたつて、何とか資本がなくちや、どうにも仕様がないさ‥‥