【人間の屑が良い仕事をする】島崎藤村(しまざきとうそん) 夜明け前より瑠璃色な


ブロンズちゃんの書籍紹介 Part43 島崎藤村『夜明け前』

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おむすび一つ、沢庵一切にも、人の心の奥は知れるものです。それをうれしく思いまして、その兎の飼ってある家へ幸福を分けて置いて来ました。


雪の中にはいろいろなものが隠れている。ちょっと思い出して見たばかりでも、幻のように立つ像は数え切れないほどある。あるものは血をもって雪を染め、あるものは深い雪の中に坐りつくした。


トルストイがその晩年に、老子の教を探し求めてゐたといふことは床しい。思想とは完成するにつれて殼を脱ぐやうなものではあるまいか。あらゆるものを見盡し、あらゆる試錬に耐へ、その志を弱くし、その骨を強くするところまで行つて、萬苦を經て後に思想無きに到つたやうな人が老子ではあるまいか。


言葉というものに重きを置けば置くほど、私は言葉の力なさ、不自由さを感ずる。自分等の思うことがいくらも言葉で書きあらわせるものでないと感ずる。


短夜の頃の深さ、空しさは、こゝに盡すべくもない。そこにはまた私の好きな淡い夏の月も待つてゐる。夏の月の好いことは、それがあまりに輝き過ぎないことだ。