【日本初のノーベル賞受章】湯川秀樹(ゆかわひでき)
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未知の世界を探求する人々は、地図を持たない旅行者である。
地図は探求の結果として、できるのである。
目的地がどこにあるか、まだわからない。
もちろん、目的地へ向っての真直ぐな道など、できてはいない。
現実の根底にある自然法則に気付くのは達人で、
現実の根底にある自然の調和に気付くのは詩人である。
前人未踏の最初の着想というものは、決して安易な思い付で得られるものではない。
それはどこまでもじっと喰い入っていく人間の精神力が、凝りに凝ったものなのである。
前人未踏の新しい着想、しかも現実にわれわれの眼前にあるすべての物質の、
最も深いところに秘められている法則である。
それは最高の詩人だけに時折その片鱗を見せるあの天の啓示のように、
時々ひらりとかすかな光を見せる。
しかしそれを捕えようとすれば、既にあとかたもない。
未生以前の記憶をよび起そうと努力するような、やるせない苦しみである。